コルトアムク・リーム
【妖精の章・五】
タルクマタンに招かれたリムは外からもうかがえる大きな建造物のとおりの大きな木造の応接間へと通された。
作りは質素ながらも木の暖かさを感じる空間で、窓辺から指す美しく暖かな日差しが心地よかった。
そこには六人掛けのテーブルがひとつと、椅子が四つあった。
タルクマタンは台所から器を二つと鍋をのせた盆を持ってくるとリムを席へと促した。
リムが着席したのを見やるとせっせと器に鍋からスープをついでくれた。
木の器に盛られたスープは先ほど見かけたマルナ葉が手のひら大に切り分けられ、美しかった黄緑はスープの飴色と溶け合い薄く茶色がかった宝石のように美しい。
またごろりと大きな肉の塊も入っており、溶けた脂がスープに染み出しているのがうかがえる。
「この村のマルナ葉を使ったスープだよ。
肉はこの近くでププを飼っているからね。
そいつで作ったベーコンなのさ。
ささ、遠慮せず、たんと、食べておくれ。」
タルクマタンは優しくリムに微笑むとそう言った。
リムはいただきます、と言うとマルナ葉に、与えられたスプーンをあてた。
力を入れていないのに、すーっ、とマルナ葉はほろり、と切れていく。
一口大に切り分けたマルナ葉のかたまりを口に運ぶ。
スープは甘いような辛いような香りの通り、少し辛めだが、マルナ葉の深い甘みがかみしめるほどに口の中に広がる。
最初はさくさくとした食感があったかと思うと、スープのしっかりとしみた柔らかな部分があり、口の中でそれが混ぜ合わされていくのを感じる。
ププと呼ばれる生き物で作ったと言われるベーコンというものにも口をつけてみる。
しっかりとしたかみ応えがあり、深い塩味(えんみ)を感じた。
ふとタルクマタンを見やるとマルナ葉とベーコンを共に食していた。
リムはこんな食べ方もあろう、と真似するとベーコンの塩味が引き立たされるだけでなく、なんとマルナ葉の甘みも増し、さらに口に含んだスープの深みも増した。
リムはこの地に根付いた素晴らしい宝に舌鼓を打った。
この宝は良いものだ。
腹にたまるだけでなく、先ほど濡れた際のまだ得られていなかった暖かさをも取り戻してくれた。
素晴らしい食事をタルクマタンと取っていると、外から騒がしい足音が近づいてきた。
足音はだんだんと近づきタルクマタンの家の扉を大きく開くと、大声で叫んだ。
「大変だ!!化け熊が出たぞ!!」
半狂乱になってタルクマタンの家に飛び込んだ男はひどくおびえながらも強襲してきた敵への恐怖心を余さず伝えた。
嵐が 始まる─── つづく