コルトアムク・リーム
【妖精の章・三】
声をかけたのはひげを蓄えた中背の小太りの中年であった。
ざりりと音を鳴らしながら坂を滑り降りてくると、心配そうに声をかけてきた。
「この辺で爆発音みたいなもんが聞こえてな。……って、あんた、土汚れがひどいぞ! うちにきなさい。汚れを落とそう。」
中年は心配、驚愕をひとしきりすると善意からかそのように声をかけてきた。
青年は光っていた方の腕を見る。
光は消えていた。
少し驚いた後で、はいと返事をした。
坂を上ると見事な青い植物の畑が広がっていた。
青年は初めて見るその野菜に驚愕の表情を浮かべていた。
「すごいだろう。うちの畑は。こんなにたっぷりと肥えたマルナ葉、他で見ないだろう!」
青々とした美しい黄緑の丸い植物はどうやらマルナ葉というらしい。
中年は得意げに がはは、と大きく笑うと青年を手招きした。
目の前には大きなロバ車があり、中年の裕福さを物語っている。
道は少し整備されており、通るのは苦労しなさそうな土の道である。
二人して乗り込むと、かぽりかぽりとロバ車は進む。
中年は暇になったのか、語りかけてきた。
「わしのじいさんのじいさんの…ずーっと前のじいさんから受け継がれてるはなしだがね、この辺はむかし、戦争があった土地らしいよ。
戦争の直後はそりゃあひどかったらしい。しかし、農民のじいさま方がうんと頑張ったから今のこんな立派な畑があるのさ。」
誇りだよ、と続けた中年はとても誇らしげに優しく笑う。
「わしはこのへんの野菜畑を持ってるタルクマタン、お前さんは?」と、問うてくる。
青年は戦争の話を聞いた瞬間は硬い表情をしたが、過去の働きぶりによる変化を聞くと表情がやわらかくなった。
青年は雑談を続けるように言葉を続ける。
「私はラブ・ド・リム。旅をしています。」
「ほーう、旅か、いろいろな話を聞かせておくれよ。」
と中年が続けると、賑やかな祭日のようになったロバ車は目的地へ向けて、どんどん進んでいった。
つづく