コルトアムク・リーム
【妖精の章・四】
ロバ車がかぽりかぽりと進んでいくと、木造の大きな家が見えてきた。
この正面の道の他に右と左の道が続いており、そちらにもマルナ葉の畑が続いている。
少し首をひねって見る程度では見渡せないほど大きな畑であることはよくわかった。
ロバ車を降りてタルクマタンに手招きされ裏手へ続くと、大きな水洗い場と井戸があった。
「すまないが、井戸からは自分で水を引き上げて洗ってもらっても良いかね?」
腰をさするタルクマタンからリムは言われ、察したことでわかりました、と短く返した。
タルクマタンが家の中に帰って行ったのを見届けたリムは自分の体を洗うべく井戸から水をくむのではなく、右手を握ると親指を立てて胸の中心に突き立てた。
「月よ」
親指の先と胸の間が少し蒼くまばゆく光ったと思うと、つま先から髪の毛の先まで美しい色を取り戻した。
リムはこのままでは疑われるか、と考えて井戸から水を十度くむと、四度は自分の体に、六度は洗い場へとまいた。
水色の濡れ鼠になったところでタルクマタンは手に四角い塊を持って帰ってきた。
タルクマタンは美しく水色を取り戻したリムを見て、とても驚いていた。
「あれま、石鹸でも、と思って持ってきたんだが。あんた…もうすっかりきれいになったなぁ!」
タルクマタンはにこやかに笑うと石鹸と呼んだ塊を乱雑に腰のポケットにしまうとちょいちょい、と陽光が照らす方を指した。
水を乾かせ、ということなのだろう。
ありがとう、と短くリムが言葉を返すとタルクマタンは再び家の中に帰っていった。
たっぷりと植物を育てる美しく輝かしい陽光がリムの身を照らす。大きく腕を広げるとスッキリとするようなふわりとした風が水色の髪を抜けていく。
サラサラと心地の良い音が過ぎていき、水を吸った畑が乾いていくような心地よさを覚える。
すっかり水が乾いたころに家の中から風にのって甘いような、すこし辛いような温かな匂いが運ばれてきた。
タルクマタンが木で出来た窓をきぃ、と小さな音を立てて開けるとリムへと声をかけてきた。
「ご飯にしよう。」
リムを家の中へと手招きした。
つづく